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2007年 08月 26日 ( 1 )

夏休みに入ってまもなく出かけた市の美術科夏季研修では、倉敷の大原美術館で、「鑑賞」をテーマに主として美術館の学芸課長柳沢秀行氏よりレクチャーしていただいた。

氏は、目の前に置かれた一台のホワイトボードを素材に対話型鑑賞をやってのけた後、1枚の絵がもつ情報には何があるか、参加者一人一人を順番にあて挙げさせた。60ぐらいすぐに出てくるはずとプレッシャーを与えつつ…。

大きく分けると、絵の周辺にあるもの、すなわち、作者がらみの情報と、絵そのものが含むもの、すなわち描かれているものから読み取れる情報ということができる。

作者がらみの情報には、作者、タイトル、制作年代、時代背景、描かれたり保管されていたりする場所などで、いわゆる展示される場合、絵の横に貼られているキャプションに書かれることが多い。

絵そのものから読み取れる情報には、形、色、マチエール、主題、画材、技法、作品サイズ、モデル、モチーフ、絵に描かれた場所、登場人物の表情…などなどであり、図録やましてやモノクロ図版ともなるとたちまち読み取れなくなるものも含まれる。

鑑賞教育が盛んに論じられるようになって久しいが、対話型鑑賞について、美術館で現物を鑑賞する優位さを実感して帰路についたことを思い出した。とはいえ教室で授業をする上での展開の仕方など可能性も開けたことも事実だが…。

さて、いまさらなぜそれを記事にするかということだが、それはふと手にした某大学の学部報が発端である。そこで1883年に起こった火山の大噴火が1880年代の絵画に影響を与えたかもしれないという仮説を論じていたのである。

自然派と呼ばれる画家たちは、奇しくも産業主義が急速に発展し、自然破壊の波が押し寄せた19世紀にジャン・ジャック・ルソーの思想をもとにした「自然へ帰れ」のスローガンの中で、生まれている。自然が危機にさらされて初めて自然回帰という現象が起こったのだ。

印象派の画家たちもこの自然派の流れの中からあらわれた。彼らが戸外に出て光溢れる世界をキャンバスにとどめようとしたという話は本ブログでも何度か書いているところだ。

さて、学部報によると、大噴火はインドネシアのクラカタウ島で起こった。有史以来の大噴火は島の大部分を吹き飛ばし、その噴火で生じた巨大津波で数万人の犠牲者が出た。また噴火で拡散した火山灰は3年以上成層圏を漂い、1886年ごろまで夕日が黄金色や緑色に輝き、夕焼けがこの世のものとは思えないほどの美しさであったという。

また、クラカタウ島の大噴火と絵画との関係について、ムンクの「叫び」など血のように染まった夕焼けが取りざたされているという紹介もしている。このことはウィキペディアの記事をみてもそのような記述がある。

画家が見たであろう特異な自然現象が、絵に描かれているかもしれないという仮説は興味深い。モネの作品の中にも年代に注目したならそのような作例を見ることができるかもしれない。モネに関しては夕焼けを描いた作品がことさら数多い。だから、そのうち大噴火ののちの3年間に見られたと思われる美しい夕焼けにモネ自身が心を動かされ、キャンバスにとどめたであろう作品は必ずあるに違いないと思えるのである。絵画作品が含んでいる情報の一つに、画家が見たこうした特異な自然現象も挙げることができそうだ。

ちなみに、学部報の寄稿者によると、氏の説を実証する例はまだ見いだせていないという。1886年に最後となった印象派の展覧会(モネはこの時出品していない)が開かれたが、ここで出品された作品を全部観てみたいと述べている。

私の手元に「モネ大回顧展」の図録がある。1883年から1900年代にかけての夕日に着目して当たってみた。

1883年の「エトルタの日没」p86に描かれた夕焼けはどことなくムンクの「叫び」の背景を想起させる。だが、この作品はモネが1883年1月から2月にかけての3週間に滞在して描かれたものであるという。クラカタウ島の大噴火が同年8月に起こっていることから、時期的合致は見られない。ただし、モネはこのエトルタの地をたいそう気に入り、その後3年間毎年訪れ、60点もの作品を残しているという。

1886年の印象派展に出品された作品にしろ、モネのエトルタにおける残る作品にしろ、検証するに値する作品はまだまだあると思われる。

絵の見方は様々であってよい。重要なことは、新たな視点を持つことだ。興味関心を抱くことから作品との対話が進み、深い鑑賞へとつながっていく。個人が絵を観ながら、作者やその思い、その時代についての想像を膨らませ、思いを巡らし、そのことを通して、今を生きる個人の感性をより高め、深めていくことが鑑賞という行為である。

件の学部報がもたらした新たな視点に従うならば、作品の中に歴史的大事件・大災害の痕を見つけることができるかもしれない。

 


(参考までに、Orga’s Gallaryは絵画作品の画像収録数が膨大で、検証してみる価値がある。)
by my-colorM | 2007-08-26 01:38 | アート