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「いろはかせになろう」

夏休み前に読もうと思って出張のついでに購入していた本を今日は朝から読んでいました。

ちょっとお堅い書名ですが、國清あやか著「学力の質的向上をめざす造形科授業の創造」です。

書店で手にとって読もうと思ったのは、その内容として小学校から「色」を系統的に学ぶ実践が紹介されていたからでした。

氏が「色彩から展開する造形活動」として取り組んでいる実践は学年別に次のような配列となります。

第1学年「いろはかせになろう」…自由に色水づくりをして、できた色水に命名する授業
第2学年「色はかせとうじょう」…言葉や詩からイメージを膨らませ、色水をつくる授業
第3学年「色のまほうつかい」…コラージュ手法で、イメージを何色もの色で構成する授業

今回は、その中で「いろはかせになろう」の実践をじっくり見ていきたいと思います。

この題材では、子どもたちが自分で色をつくり出すことで、美しい色、気持ちに合う色を追求する子どもの思いや、色の変化する要素としての水や絵の具の量、色と色の混色量の重要性を自ら発見していく過程、また色と色の関係を見つけていく過程が大切にされています。そして、できたお気に入りの色に思い思いの名前をつけるという色とイメージをつなげる操作により、色に自分なりの解釈を与え、色が何らかの感情を表現したり、意味を伝える役割をもつことを感じ取ることが期待されます。

色水づくりは、2段階で展開していきます。

まず、三原色の単色でつくります。

最初に指導者が赤の色水を見せ、子どもたちからその色について名前をつけさせます。

先生のつくった赤の色水を、「目で見て」と「心で感じて」の二つの方向から名前をつけさせると、「リンゴ、さくらんぼ、炎、ほっぺた」と「暖かい感じ、うれしい色、やさしい色、おこりんぼうの色」が出てきたと言います。目で見てというのは具体的事物を連想させ、心で感じてというのは抽象的な概念を象徴させてということになろうかと思います。指導者がわかりやすく整理しながら子どもたちから聞き出したものと想像します。また、おそらくここで使った三原色の単色はスカーレット、いわゆる絵の具の「赤」だったのだろうと思います。

私ならば、額面通りの三原色を混色して「赤」をつくり、子どもたちに見せるだろうと思います。なぜなら、この後の二次色、三次色の濁りが子どもたちにやや失望を与えるかもしれないからです。単色のマゼンタからは先ほどの「赤」のような命名の展開が難しいでしょうから、単色の色と水との混合は「マゼンタ・イエロー・シアン」ではさせられないかもしれません。ただ、私のやり方ですと、困ったことが起こります。それは、イエローはともかく、マゼンタ・シアンが子どもたちが普段使う絵の具のセットに入っていないということです。そうしたことを考えると実情として、スカーレットを使わざるを得ないのかもわかりませんね。(小学校の教科書も絵の具の三原色を示すのにスカーレットのチューブを図版にしています。)

ちなみに、私の知る限りでは、減法混色の三原色の絵の具は、「色あそび絵具」「三原色カラー」「ガッシュ プライマリーカラー」が、前2つがターナー、三つ目がホルベインから出ていますが、児童用とすれば「色あそび絵具」が適当かと思います。ポリ容器入りの水性絵の具ですが粘性は低く、ゆるい液体絵の具という使用感です。ターナーの三原色カラーは耐水性のアクリルガッシュと水性絵の具があります。価格は315円と抑えられてはいますが、なにしろ容量が少なく、色づくりを試した後だと一作品でも使い切って足りない生徒もいて意外に不便です。対し、ホルベインは容量は十分かと思いますがWとBkとのセットで1600円ではちょっと手が出せません。

さて、単色の色の命名の後で、子どもたちが絵の具と水をペットボトルで混ぜていき、単色の色水の変化を楽しみます。絵の具と水の量によって濃淡の違いができ、イメージが変わっていく様子を体感します。グシュグシュ、ガシャガシャ楽しそうに振って混ぜる光景が目に浮かぶようです。

そうして友達のつくったいろんな濃淡の「赤」に命名していきます。

「いちごの夕やけ、大爆発、もみじ色、燃える炎は嵐をよぶぜ、ベピア(ベニ・ピンク・アカから)色」

青からは「ゆきぞら、夕焼けの海探検」、黄からは「天使のはね色、レモンの太陽、まぶしい光」それぞれ発見のある素敵な名前ですよね。注目したいのはその命名の中での、次のような感想です。「同じような色なのに、Mさんは『だらんとした色』、Tくんは『さわやかな色』とつけているのがおもしろいとおもいました」とあるのです。こうして教室ではさまざまなとらえ方があることを学びあうのです。それを素直におもしろいと感じる心をどんな場面でも伸ばしていきたいものです。

そしてさらに、できた3つの単色を少しずつ混ぜて二次色をつくります。

楽しい命名ができた後ですから、子どもたちはすでに単に混色を試すだけでは満足していません。絵の具を追加したり、水を増やしたりの試行錯誤が続いたようです。

続いて命名。「ゆうれいいろ」「地獄いろ」「夏のはっぱいろ」「しょんぼりしたいろ」「おとうさんのいろ」…。

ステキですよね。こうして色が何かのイメージと結びつくことを知った子どもたち。色を見る目が格段に違ってくると思います。

ところで、イメージを言葉に置き換える操作は学びにとって大変重要です。それは思いや考えを言葉を介して互いに共有できるからです。ところが、案外大人の側が対応していないことがあります。というのも、最近小学校で次のような場面に出くわしたのですが、そんなことが往々にしてあるのです。やはり低学年の子どもでしたが、ペットボトルに透きとおる赤紫の色水を手にとても大事そうに階段を上ってきたのです。私がその色に気づいて思わず見つめると得意そうにその子どもは私によく見えるように見せてくれたのでした。「きれいな色だね」そう言うとこっくりうなづきました。後ろから草花の絞り汁を水で薄めてつくったものだと学年の先生が教えてくださいました。私に機転が利けば、たとえば「ブドウのジュースみたいで美味しそうだね」などと具体的に声がかけられたのでしょうが、単に「きれいな色」で終わってしまったのです。その点、件の色水に命名する実践では教室で様々なイメージが色につけられ、経験として豊かな色体験へとつながっていくだろうと思われます。

さて、この後、できた色水のペットボトル200本以上を同じ「色の家族」に分け、薄い色、濃い色の順に並べ、似ている順に並べ環になることを学んでいきます。その過程で次のような感想が載せられています。

「はじめのうち、色の家族で色水を仲間分けしていると、赤の家族に入れたらいいのか、青の家族に入れたらいいのか、なやむ色がありました。それを赤と青の真ん中においたら、どんどん色水のわができました」と。試行錯誤を経て発見したことは子どもたちにとって大変貴重です。

こうして並べたペットボトルを使い、クラスのシンボル「巨大でんきちくん(でんでん虫)」として共同制作へとつなげていきます。また、さらに今度は自分のねらい通りにお気に入りの色水をつくらせ、命名するまで取り組みは徹底して進みます。

1年生でこうした「いろはかせ」になる取り組みをした後、2年生では言葉や詩のイメージで色をつくる段階へとステップアップしていきます。

低学年のうちにこうした豊かな色彩経験を積んでいるというのは造形的な基礎としてはとても心強いものです。色を自分の持ち玉として「表現」や「鑑賞」につなげていく道筋が形成されていくように思います。

今、中学生には三属性をはじめ色彩の基礎用語を身につけさせています。共通概念で指示や意図が効率よく通じるために有効だと考えるからです。ところが、混色、配色の経験が浅いせいか、なかなか落ちてくれないときがあります。ひどいときにはそうした用語を使った会話が生かされず、結局具体的な指示を出さなければならないことすらあります。「○色と○色を何:何の割合で混ぜてみよう」の類です。貴重な絵の具を無駄遣いさせるわけにはいかない場面では、こちらも必死。「おい、ここで実験をするな~」てなもんです。低学年のうちにたっぷり実験して経験を積み、大きくなってきて欲しいものです。

色を小学生から系統的に学ばせる心強い実践としての色水づくり「いろはかせになろう」。大いに参考になりました。