行き過ぎたデザイン…?でしょう!

木版画の制作のために子どもたちに彫刻刀を持って来させています。

ある生徒の彫刻刀を見て驚きました。

彫刻刀の刃の部分にクリーム色のプラスチック製の安全カバーがついているのです。

さて、木版画や木彫の授業で、いざ彫刻刀で彫る作業が始まるというときは必ず開始数秒まず子どもたちの彫刻刀の握りを観察します。正しい彫刻刀の握り方ができていない生徒がいればすぐに作業を止め、安全指導をするためです。

私の左手の人差し指から小指にかけて、起点終点のわかる直線的な軌道をしめす傷跡が残っています。それは彫刻刀でつくった傷です。三人兄弟の末っ子の私には、お下がりの、種類も本数も揃っていない、おまけによく使う丸刀には刃こぼれができているようなセットが彫刻刀を使う初めての経験であてがわれました。

当時、先生は「ケガをしないように気をつけて」と全体に声をかけてくださいました。ところが私はなかなか彫れませんでしたので、彫刻刀の柄を上からかぶせるように握り、人差し指をのばして刀を支え、押し出すようにして板と格闘していました。節があったのでしょうか、抵抗がきついので、板の向こう端を左手で押さえて、力一杯押し出しました。次の瞬間、上滑りをした彫刻刀がそのまま直進して…。

私は授業で必ず自分のこの失敗談とともに傷跡を見せた後、なぜ危険なのかを握り方による彫刻刀の動きの違いを実演しながら解説します。

彫刻刀の正しい握り方の基本は「鉛筆持ち」。そして持ち手の指を伸ばし、板面に小指から手の平へ続く手の側面を当て、添え手の親指を刃の付け根にあてがい、方向を制御させながら持ち手全体を移動させて彫り進みます。

このことをきちんと押さえてやれば、無用なケガをすることはほとんどありません。

件の安全カバー付きの彫刻刀

確かに至れりつくせりです。転ばぬ先の杖とでもいいましょうか。

しかし、私が親ならこれは子どもに持たせません。

安全カバーによって、これから削ろうとする線がとぎれてしまっています。おまけに連続して長い線を削っていこうとするとクルクルと巻いていく削りかすがカバーに当たり、削りを中断させてしまうのです。

作業中にケガをする危険は避けられても、削る作業で期待できる木や作品との対話がとぎれてしまうのはどうにも困りものです。

このようなセーフティガードがついている彫刻刀は学校推奨品として業者が出している注文票で扱っているようです。メーカー側がねらっているのは安全対策という付加価値でしょうが、ものづくりを後押しするメーカーであるはずなのに、ものとの対話を阻害しかねないこうした配慮というのは言うなれば本末転倒なのでは…。

ひょっとして指導者が信用されていないのでしょうか。

最近ちょっぴり首をひねってしまったできごとでした。