「家族療法」の伝道師

私の勤める学校にはSC(スクールカウンセラー)が二人配属されています。週に1、2回それぞれ違う曜日に来校されます。主な活動場所はカウンセリングルームですが、今年はたまたま職員室での座席が私の席の向かい側にあり、仕事を終えた先生方と顔を合わせ、ときどきお話をすることがあります。お二方とも私と同世代といえるでしょうか。

一人は女性カウンセラーです。時にはカラーセラピーや手相などの手法も使いながら、子どもたちの心を開き、受容と共感をもってその声に耳を傾けて下さいます。この間なんかは「今日、手相の先生来てる?」(敬語が使えていないのはこの際スルーしてください(-_-;))と、待ってました、とばかり職員室に尋ねに来た生徒がいたほどです。週1回来られる日の昼休みや放課後、カウンセリングルームを訪ねる生徒は結構いるようです。

もうお一方は男性です。「ふるかわ家族カウンセリング研究所」を開き、開業臨床心理士としてカウンセリングを行ったり、講演活動もされる傍ら、スクールカウンセラーとして、また、スクールカウンセラーのスーパーバイザーとして活躍されています。「家族療法」という手法で、戦略的、積極的に問題解決に関わることで、子どもたちの不登校や神経症、非行などの問題や症状の改善に取り組まれています。身近では本校や校区小学校の事例を、数回の家族面接を通して、ケースごとに違ったアプローチをかけながら、改善を図っておられます。

先週の土日、その男性臨床心理士、古川秀明先生の「初心者のための家族療法基礎講座2008」が開催されましたので受講してきました。予定定員30名のところ50名参加と盛況でした。

受講のきっかけは、その週に行われた校内研修で先生の講義をお聞きしたことからでした。

学校の教師は、今、ADHDやアスペルガーなどの自閉症スペクトラムの生徒を抱えたクラス経営と授業展開に、また生徒の問題行動や不登校生徒への対応に、困難な保護者との対応に、増え続ける事務仕事に、そして自身の家庭生活に、と、消耗しています。校内研修会はそうした私たち教職員の疲弊を少しでも軽くしようという応援メッセージが込められた温かいものでした。教職を長くやっていれば、誰しもが理不尽な暴言にさらされ、つらい対応に心を蝕まれた経験があるものです。それらは長年の澱(おり)となって、また、ささくれや棘となって、心の中に居座り続けるのではないでしょうか。その思いに寄り添い、どうしたら教員が自分の心の健康を保っていけるか、数々のヒントを与えてくださりました。どれも重い話なのに、持ち前のユーモアとスピード感のあるトークにより、いとも簡単に笑いに変えてしまう魅力に、もうちょっとお話をお聞きしたいと思ったのでした。そして何より意外だったのが、先生がシンガーソングライターで、そのお話と連動した曲を歌われるというおまけ(ご当人はそれが本職かのようにおっしゃっているので、このことばはあたらないかも…)がついていたことでした。研修会では「がんばれ!ティーチャー」という曲をギター弾き語りで披露されました。聴いているうちに、ありがたくて涙がこぼれそうになる、教師への応援歌でした。

さて、長い前ぶりでしたが、二日にわたる基礎講座は、1:30~5:00、間に10分程度の休憩を挟み、合計7時間の講座でした。ミニューチンの「構造的家族療法」(立命館大学の団士郎氏が先生の師匠だそうです)の基礎である「システム論」を中心に、難しい専門用語は使わず、初心者にも大変分かりやすい内容で進められました。「あっという間に始まって、あっという間に終了する」研修会をモットーにされているとのことですが、文字通り、一切退屈する場面がなく、居眠りしたらもったいないお話をたっぷり聴かせていただきました。先生は色んな引き出しを持っていらして、話題に事欠かず、まだまだお聴ききしたいと思わせる二日間でした。

「システム論」と対極にあるのは「因果論」です。

因果論では、「問題」には「原因」がある、とします。それは当然なのですが、この場合その問題と原因は1対1で対応し、つきとめた原因を除去することで解決を図ろうとします。例えば、子どもの非行が父親の養育態度が原因じゃないかと考えたことにしましょう。この場合、原因(犯人)は父親です。仮に「あなたが原因ですから、その態度を改めてください」と迫ったとします。原因とされた側は、完全に犯人扱いされているわけですから、素直に受け入れることなど、まずありません。「私ではない」と否定し、「あなたが原因です」と迫った人間に敵意をむき出しにして抵抗するでしょう。そうして援助者(カウンセラーや教師)が保護者と敵対したら問題は棚上げにされ、解決どころか、放置されることになります。そうなったら子どもの非行という問題はさらに悪化しかねません。というわけで、因果論にたったアプローチは誰もが対立(敵対)という失敗の危険を孕んでいるので、絶対に避けなければならないということがわかります。

システム論では、原因は様々にあるという観点をとります。その原因には、家族関係のいくつもの様相が考えられます。

それは、…


おっと、受講料を払って聴いてきた講座です。私には6時間強あったお話をすべて記事にする気前のよさも、はたまた才覚もありませんし、先生からそこまでの許可を得てもいません。ですので、内容はこのぐらいで止めておきます。

先生には、ユニークな生育歴があるようです。それは名付けからはじまり、お母様の養育方針からきているらしく、そのお話の一端を聞いたらどうしても続きが聞きたくなります。

また、十数年の開業臨床心理士としての経験から、様々な感動的な事例をお持ちですし、お話には笑いあり、涙あり。自分自身の家族を振り返るよい機会にもなります。聴いている内にカウンセリングを受けているような癒し効果があるようで、元気をいただけたように感じました。

極めつけは歌です。なんとCD「夢、情熱、あこがれ。」を出されています。臨床心理士の経験があるから書ける、いい曲があるんですよね。

講座の最後に、その一枚目のCDに入っているもの、入っていないもの全部で8曲歌われました。涙があふれて困った曲もありました。臨床心理士になる前は、養護学校に勤めていらして、そこで出会った生徒さんの優しさを歌った「先生と呼ばないで」という曲が中でも一番好きです。その曲の中で、先生が歌手になりたかった自分のことを書かれています。

「歌う臨床心理士」、「カウンセリングもできるシンガーソングライター」、「カウンセラーのスーパーバイザー」、「笑いと涙のエンターテイナー」、…、古川先生をどう表現したらいいのでしょう。

今回、私も「家族療法基礎講座修了証」をいただきました。ですので、とりあえず僭越ではありますが、「家族療法界屈指の伝道師」の称号を私から…。

2009年春、また研修会を予定されているそうです。伝道師、次はどんなおもしろいお話をしてくださるのでしょうか。楽しみです。
by my-colorM | 2008-09-07 10:36 | 日記