人気ブログランキング | 話題のタグを見る

色が見えるしくみを教える

美術の授業には「色の学習」という学習項目があります。

教科書通りに扱うと「無彩色」と「有彩色」からはじまり、「色の三属性」「色相環」「対比」「配色」…。これらは主に1年時にほんの数時間の授業時間で教えることが多いと思います。

しかし、私が中学校の美術でまず教えるのは「色の見えるしくみ」です。
教科書ではこの部分は出てこないのですが、私はあえてここから授業を始めます。

昨年から、プリズムを授業で使っているのですが、昨年はプリズムを覗いてスペクトルを見つけるというものでした。今思えば「ゲーテ」の手法なんですが…。

蛍光灯や金属部分で反射している白い部分は分光されて美しい虹色のスペクトルが観察できます。これは天候に左右されず、都合がいいと考えて一人一人に覗かせてみました。

しかし、今年は9月に「色の学習」の単元を設定したので、割と強い日差しが午前中から期待できましたから、試しに外光をプリズムに直接当てて投影してみました。
すると、壁面や天井に、覗いて得られるもの以上に美しい虹色の光が帯となって子どもたちの目線を釘付けにしました。
「おぉ…」どのクラスからも歓声が漏れ、色の正体をつかむきっかけを与えることができました。

「太陽光線のように白く光る光はじつはこのような様々な色を感じさせる光が集まったものです。1666年ニュートンという人がこのプリズムを使った実験で明らかにしたのです。これらの色の光を凸レンズでもう一度集め、スクリーンに映したのですが、どんな色になったと思いますか。」「はい、そうです。もとどおりの白になったんですね。」

白色光がプリズムを通るとき波長の長短による屈折率のちがいから分光し、様々な色みを感じさせる光の帯ができることを平易な言葉を使い、確認をしておきます。

ここでは波長とは何かというところまで詳しくは語りません。中学1年生にはまだ難しいだろうと考えるからです。

とにかく様々な色を感じさせる光があり、それらが集まって太陽光線のような白い光になるのだと言うことを大まかに伝えられたらよいと考えます。

次にそもそも光がないと色は見えないということを事例を示して伝えます。

教材は明るい場所でのリンゴと暗い場所でのリンゴの写真を比較したものです。
これらの写真にはあらかじめ灰色のマスクをかけておきます。そしてそのマスクには正方形の窓が開けてあるので、子どもたちの目には、はじめは「冴えた赤」と「ダークグレイッシュの赤」の四角い色票に映ります。

「ここに四角い色が見えますが、それぞれ何色ですか。」そう訊ねます。

左はすぐに赤、そして右はしばらく考えて黒っぽい色などと答えが返ってきます。
答えが出てきたところで、「実は、これは…」と言って、マスクをめくります。
するとそこには「明るいところ」「暗いところ」という説明書きをそえたリンゴの写真が登場します。

「二つの違いは何でしょう」と訊ねながら、つづけて「これは光があるときと、無いとき…ですね。」こうして色が見えるのには「光」が必要であることを強調します。

次に「リンゴが赤いわけ」をスペクトルの色帯を使って解説します。

「白色光に含まれる様々な色を感じさせる光のうち、リンゴは赤く感じさせる光を反射し、他を吸収しているのです。」こうして赤く見える物体の性質を押さえたところで、「じゃバナナは?オレンジは?」と訊ねていきながら、物体の色はその特定の色の光を反射したり吸収したりする特性からそれらの色に色づいて見えること、そして反射したり透過したりした光が目に届き、色を感じさせるということを学んでいきます。

これらを説明する際の教材は、スペクトルの色帯(vトーンのカラーカードを青紫~青~緑~黄緑~黄~橙~赤の順に貼ったもの)の上に白、下に黒の画用紙が貼ってあるのですが、白はすべてを反射し、黒はすべてを吸収しているというところまで子どもたちに言わせて物体の性質を押さえます。

「…ですから、今日からは、たとえばここにある青い袋は、この袋に青い色が付いているのではなくて、どういうことであると説明できますか。そうですね。様々な色の光が集まってできている太陽光線のうち、青を感じさせる光が反射し、その反射した光が目に入って青く感じているということです。ちょっと長ったらしいですけど…。」

そうまとめながら、「光」「もの」「目」、その3つの要素がかけ合わさって色が見えるのだと言うことを小1時間かけて押さえておくのです。

絵を描くときに、大抵は「リンゴは赤い」という固定観念がついて回ります。物体に色がついているのだとする固有色の考え方は一朝一夕には変えにくいものです。しかし、時間の経過で刻々と変化していく光と色をとらえる力はどこかで習得していって欲しいものです。そのために折に触れ光と色について、また色が見えるしくみについてふりかえることは意味があると思います。実際の制作の機会を捉えれば色を学ぶ場面はたびたびあるわけですから、徐々に本当の色のとらえ方が定着すればよいと考えています。

今日は「いろの日」。中学生に教える「色の学習のいろは」の「い」のお話をさせていただきました。

そうそう。今日は氷結さんのお誕生日でしたね。おめでとうございます。
by my-colorM | 2007-01-16 23:34 | 今日は「いろ」の日(16日) | Trackback | Comments(6)
Commented by 氷結 at 2007-01-17 00:54 x
私が氷結です。ありがとうございます。
一つ年をとりました。。。 うんじゅう1歳になりました。掛布さんの背番号だ…ハハ…

ところで、私達の時代の美術の授業とは今は全く違うのですね。
私達の頃は、「無彩色」「有彩色」「色の三属性」「色相環」「対比」「配色」の話など、まっっったくなかったです。
教科書もほとんど見ていないし、作品ばかり作っていたような気がします。

今の子供達が色彩を本格的に勉強しようと思ったら私達よりすんなり入れそうですね。いつからこんな感じの授業になったのかしら???
うらやましいです。。。
Commented by hakusuke at 2007-01-17 01:09
そういった指導もあるなぁ・・・と,非常に興味深い内容です。科学的な解釈?理論を踏まえた内容も,指導することは大切なことでしょうね。参考になりました。
Commented by my-colorM at 2007-01-17 01:19
小学校5,6年の教科書に、なんと「色光の三原色」や「色料の三原色」が登場します。小学校に行くようになって、はじめてそのことを知ったときは正直驚きでした。

でも、教科書に載っているからと言って必ずしも教えているわけではないというのが現状です。(私はあえて絵の具の混色で扱いましたけど)

指導要領にはあっても実質時間数が少ないのでどこの学校も教えているかというとそうは言い切れません。研究会のテストでは色の三属性などは必ず出すので必須なんですが、それほど細かい用語まではなかなか…。

私なりにはスムーズに制作するために基本用語の意味が通じて欲しいのできっちり教えているつもりなのですが…。
Commented by color-cona at 2007-01-17 11:13
息子が小学校の頃、「色の三原色ってさぁ~」って私に質問してきたのを思い出しました。そんなこと知ってるの?とちょっと驚いて、「色光?色料?どっちのこと?」って聞きなおした記憶があります。
「何それ?」って言ってましたから説明しましたが、理解できたのかどうか分かりませんが・・・教科書にあったのですね。
でもうちの息子の小学校の美術の先生は恐らく教科書は全然使わなかったのではないかと思います。
色の見えるしくみから教えてくださる授業は、ワクワクするでしょうね。
もっと知りたい!って思うはずですから。
つい先日も、息子に夕方の色の見え方(プルキンエ現象)を話したら、すっごく面白いって言ってました。
Commented by さかもと at 2007-01-18 02:16 x
そもそも「いろはにほへと」も色は匂へどだったりしますので、必ず知っておきたい知識として、小中学校くらいからきちんと教えてほしいですねぇ。
ある意味では数学とかよりも社会で役立つ知識なのになぁと思ったりします。
「色の学習のいろは」というのを見て、そんなことをぼんやりと考えてしまいました。
Commented by my-colorM at 2007-01-18 22:29
>color-conaさん
何につけ、学びにはレディネスが必要ですね。興味があることならどんどん進んで学習することができます。小学生には小学生の中学生には中学生の学ぶべきことはあるのではないかと考えます。色の現象は高校生であれば「波動」でも学ぶようで、たとえば反射した波長が計算で求められるのでそれが何色に見えるか…なんてことも出てくるそうです。以前息子が逆に教えてくれたことがあります。(私は勉強した記憶はありませんが…)興味をもつことができたらうれしいですよね。

>さかもと先生
学際的な中身からどこを教えるか…。その整理がまず必要なのではないかと感じます。「総合的な時間」というのがあって、よくプレゼンテーションをさせるのですが、視認性・可読性などはすぐにでも身につけさせたいと考えてちょくちょく助言したりしています。もちろん授業でも扱うのですが…。必要な場面で直接わかりやすくというのが大事ですね。その積み重ねでしか定着しないようです。でもまずは先生方からですね。パワーポイントをされると聞いたらついつい「ちょっと見せて」といって口を挟んでいます。(笑)